百合好きによる百合小説掲載ブログ

現在公開している小説は長編一本のみです。投稿順に読んでいただければ問題ないので、初めは「私立桜花女学園・恵子の場合①」からスタートして下さい。またこのシリーズには性的な描写を含む場合があります。

私立桜花女学園・恵子の場合①

「ふぁ・・・ん・・・」

薄暗い部屋に湿り気を帯びた声が小さく鳴った。

「んん、っあ・・・ぅん・・・」

その声に連動するようにくちくちと粘り気のある音が響く。
閑静な住宅街。夜の帳が降りてより幾刻、既に0時を回った街には車の走る音ももう聞こえない。

「・・・っ、あぐっ・・・」

そんな静まり返った世界の中で、まるでこの部屋だけが密やかに息をしているような・・・

「・・・あ、ぅあ、あああぁ!」

自分でもよくわからない妄想を抱きながら、少女は体を強張らせて、小さく啼いた。


――――――


私立桜花女学園。
都市の喧騒から離れた山の上に建つその学校は中高一貫教育で、多くの生徒を抱える名門校である。
名門といってもあくまでそれなりにという程度であり、所謂お嬢様学校などではない。
通う女生徒の家の大半は一般の中流家庭だし、部活動も盛んであるためスポーツ特待生など一芸に秀でただけの生徒なども多くいる。
もちろん生粋のお嬢様もいるにはいるが、それはこの学校の規模が生徒数2000人強という大きさであるからであり、一般的な女子校と比べて少し多い程度のものであろう。

そんなどこにでもはない、だけどさして特別でもない学校に、私は通っている。

「・・・はぁ」

小さく溜息を吐いて、坂を上り始める。
私の名前は高橋恵子(たかはしけいこ)。
身長157cm、体重は40kg台(詳細は秘匿)、バストは・・・いやこれはいいか。
肩にかかる程度の黒髪に未だ化粧を知らない幼い顔立ち。
特技はなし。強いていうなら家事全般は人並みで、趣味はテレビに読書。

―――そんな、どこにでもある名前の、何の特徴もない、どこにでもいる女子高生。

「おはよっ!」

挨拶に振り向くと同時に一人の女子生徒が私を追い抜いていった。
彼女は同じクラスの高梨華凛(たかなしかりん)。出席番号が近いためこの学校で一番最初に会話し、一番最初に友達になった少女。

「お、おはよう!」

そのまま坂を駆け上がる彼女に後ろから声を返すと、華凛は一瞬だけこちらを振り返りながら手を上げ、そしてすぐにそのまま離れていった。

(えっと・・・あぁ、日直)

始業まで余裕があるにも関わらず、少し急いでいる様子の彼女を見てそんなことを思い出す。
私は高校からこの学校に入った中途組。中学は普通の公立校であったのだが、日直の仕事なんて授業のあいさつの号令と、あとは黒板を消すくらいで他に仕事なんてなかった。
でもこの学校は違うようで・・・

①まるで漫画に出てくるような日直日誌(かなり細かい)。
②毎日手入れされる幾つかの花瓶(週一で花が変わる)。
③朝の出席確認とショートホームルーム(何と教師ではなく日直がやるのだ!)。
④そのホームルームの為の種々の連絡事項の確認(かなり緊張する)。
⑤場合によっては抜き打ちの服装や持ち物検査(怖い!でも担当者次第では安心できる)。

などなど、実に様々な仕事が与えられるのだ。
特にSHRがネックで、その連絡事項の確認のために各クラスの日直は職員室で先に朝礼に参加することになっている。その時間が当然だが始業よりも大分早いため、彼女もこんな時間から走って登校しているわけだ。

(お勤めご苦労様です)

心の中で華凛に告げて、もう見えなくなった彼女の背中を追おうとしたところで―――

「―――おはよう」
「っ!」

後ろから声が掛かった。
一瞬の硬直の後、振り向けばそこにいるのは・・・

「・・・ぉ、おはようございます」

170cmを超える長身にしなやかな長い手足。
筋肉質で引き締まっているが、厚いブレザーでも隠し切れない豊満なバスト。
日に焼けて少し茶色がかった長い髪。
シュッと筆で引いたような切れ長の瞳に長いまつげ。

「帰宅部なのに相変わらず早いね、恵子」

少し低めでだけどハリがあって、耳よりもお腹に響くような声。
そんな声を出したとは思えないような、艶やかで柔らかそうな口唇。

・・・思わず長々と描写をしてしまう彼女は、この学園の誇るスターの一人。
バレー部のエース・見城遥(けんじょうはるか)、その人である。

「せん、先輩も早いです・・・ね。部活の朝練、でしょうか」
「んや、今日はなし。朝練ならこんな時間じゃ間に合わないって」

おどおどとした私の言葉にもハキハキと応えてくれる。
普通に立っているだけなのに全身からエネルギーが溢れているかのようで、思わず体が竦んでしまう。

「そ、そうですよね・・・ごめんなさい・・・」

小さくなりながら、我ながらなんて暗い・・・と思える声を返す。

(あぁ、もう・・・!)

心の中で自分を叱咤する。

(先輩と朝出会うなんて別によくある事じゃない!・・・いや、よくはないけど。でもたまにはあるし、少なくとも初めてではないし・・・)

きゅっと目を瞑って、自分を必死に鼓舞する。

(ただの朝の挨拶!朝の挨拶!何気ない会話くらいハキハキと応えられずにどうするの、恵子!そもそもあんたはいつもいつも―――)

「恵子?」
「ひゃわぁい!?」

目を開くと大アップの先輩の顔。
その距離わずか30cm程度。こんなの少し顔を動かすだけでキスが出来てしまう・・・

(・・・ってバカ!だから落ち着きなさい!)

「どどど、どうしたんで、でしょうかっ!」
「どうした、はこっちのセリフなんだけど・・・」

理性でもって体を後ろに引きながら辛うじて言葉を返すが、恐らく顔は引きつり瞳はメジナのように俊敏に泳いでいる事だろう。

「ほら、行こう?」

そんな誰の目から見ても動揺しているであろう私の肩にポンと手を載せ、先輩が先を促してくれた。

「ひゃ、ひゃいい・・・」

対する私は、一瞬で離れたはずの肩の温もりに意識がいってしまい、またしても顔を真っ赤に染め上げるのであった。