百合好きによる百合小説掲載ブログ

現在公開している小説は長編一本のみです。投稿順に読んでいただければ問題ないので、初めは「私立桜花女学園・恵子の場合①」からスタートして下さい。またこのシリーズには性的な描写を含む場合があります。

私立桜花女学園・遥の場合④

「一目惚れって、あると思うのぉ」
「一目惚れねぇ・・・」

昼休み。陽菜に誘われて今日は屋上で昼食を摂っている。
何と陽菜の手作り弁当とのこと。
朝教室で誘われた時は不安でいっぱいだったが、今ここにきてそれは杞憂に終わっていた。
見た目も味もよく、バランスも整っているように見える。意外な特技があったものだ。

「ビビッてきたのよぉ、初めて見た時にぃ」
「そうですか・・・」

何と返してよいのかわからず、あいまいに濁す。

「だからぁ、ねぇ?一回だけぇ・・・おねがぁい」

上目遣いに覗き込んでくる。
何とも愛らしい事だ。しかし・・・

「一回だけって言われてもね・・・」

何が一回だけなのか。
この"お願い"をされるのが初めてではない私はわかってる。

(一回だけって言っても・・・いや、むしろその方がおかしいと思うんだけどな・・・)

彼女が言っているのは、ようするにセックスしようということだ。
陽菜は何というか、かなりおおらかな性格をしている。
彼女は誰かを好きになったら、まず"寝る"。そうして体の相性を確かめたうえで交際するか否かを決めるというのだ。
今まで付き合った相手も"そうでない相手も"、彼女はずっとそうしてきたという。

(価値観の違い・・・それとも私が知らないだけでこれが普通なの?)

恋愛初心者である私にはちょっと理解しがたい考え方だった。
そんな彼女は、初めて会った時私にこう言った。

『貴女に一目惚れしたっぽいんだけどぉ、今夜どーお?』

あまりにストレートなお誘い。
その時はなんだこいつはと思ったのに、今や私の大切な親友だというのだから分からないものだ。

「何度も言ってるけど、私はイヤよ」
「えぇぇー・・・おべんとう食べたのにぃ」

前払いのつもりだったのか。
というか女子高生の一晩が弁当一つというのはレート的にどうなのだろう。

「知らない。私はくれるっていうからもらっただけ」
「つれなぁいぃ~!はるかのいけずぅ!」
「いけずで結構。あ、すごく美味しかったよ。ご馳走様でした」
「はぁい、おそまつさまぁ♪」

一転して笑顔に戻る。
いつものことながら感情の振れ幅が大きいというか、何というか。

(まぁ、引きずらないのは有難い事よね)

こんな甘ったるい口調だが、陽菜は意外にさっぱりしている。
相手が本当に嫌がる事はしない。だからこの"お願い"も多分じゃれついているようなものなのではないかと、私は思っている。
・・・半ば以上に本気でもあるだろうけど。

「じゃあぁ、でーと、してー?」
「デートね・・・どこに?」
「お買い物とぉ、からおけとぉ、映画とぉ、あとぉ―――」
「待って待って、一つに絞ってよ」

楽しそうに指折り数えるがそこまで付き合えない。
気分の問題じゃなく、物理的に時間を捻出できない。

「休日の部活終わりでしょ?何時間かしかないって」
「えぇぇー!いじわるぅ!」
「いじわるって言われてもね・・・」

お得意の"ぷんぷん"モードだ。
頬を膨らませて怒るなんて人間がここに実在する。

「一個ずつぅ、まわればいいじゃないー!」
「あー、休みの日毎にってこと?」
「そうよぅ!」
「あー・・・そう、ね。それならまぁいい・・・かな」
「わぁい!」

私の返事に両手を上げて喜んでいる。本当に高校生なのだろうか。
しかしまぁ、私の言葉に一喜一憂している彼女を見ていると、頬が緩むのも事実。

(憎めない子ね・・・)

何だかんだで私もこの子には甘いのだと思う。
ほっぺたを指でつつくとぷにぷにしてて何だか気持ちよかった。

「んぅ~、なぁにぃ?・・・あ、もしかしてその気になったぁ??」
「なんないっての」

まだ言うか。
減らず口を叩く彼女に苦笑し、予鈴が鳴るまでの間私たちは二人でじゃれあっていた。

 

――――――

 

その週の土曜日。
今日は練習のスタートが早かったため終わりが15時と少し早い。
先日お弁当の件で私は陽菜とショッピングの約束をしていた。

「すみません、先に上がります」

自主練習を続けているメンバーに声を掛けて体育館を出る。
待ち合わせは16時。さっとシャワーを浴びて駅前に向かった。

駅前に着き、喫茶店の中に陽菜を見つける。
そこは私たちがいつも待ち合わせに利用している場所で、今日も彼女はテラス席の一つに座って本を読んでいた。
本を見つめる彼女の瞳は、静謐としている。普段の明るい様子とのギャップでとても大人びて見えた。

「ごめん、待たせた?」

それでも私が声を掛けると、ぱぁっと花開くように笑顔を見せる。

「大丈夫~、本読んでたからぁ」
「今日は何?いつもの恋愛もの?」
「んーん、今日はねぇ、これぇ」

表紙を見ると、一昔前に流行ったミステリーだった。

「へぇ、懐かしいな・・・陽菜は初めて読むの?」
「そうなのぉ。昔はねぇ、ミステリーって高尚な気がして手がだせなくってぇ」
「こ、高尚・・・」
「あっ!わらったぁ!いま子供っぽいって思ったでしょぉ!?」
「いや、思ってない、思ってないよ」
「うそだぁ!」

本当にそんなことは思ってない。
ただ陽菜の口から"高尚"なんていう高尚な言葉が出た事が、何となくおかしかっただけだ。

「まぁまぁ、それより買い物行くんでしょ?」
「いくけどぉ・・・」
「はいはい。拗ねない拗ねない」

"ぷんぷん"モードに入りかけている彼女の頭を撫でる。
するとすぐに機嫌が直ったようで陽菜はにへっと笑った。

「それじゃぁねぇ、最初はお洋服~」

私の手を取って歩き出す。
少し狭い歩幅に合わせて、私はゆっくりと彼女の隣を歩いた。