百合好きによる百合小説掲載ブログ

現在公開している小説は長編一本のみです。投稿順に読んでいただければ問題ないので、初めは「私立桜花女学園・恵子の場合①」からスタートして下さい。またこのシリーズには性的な描写を含む場合があります。

私立桜花女学園・恵子の場合⑨

華凛が私の味方になってくれた。
疑っていたわけではない。けれど彼女自身の口から「任せなさい」という言葉を聞いた私は、万の軍勢を味方につけたような安心感を得ていた。

「それで、一応確認なんだけど」

既に舞い上がりかけていた私を余所に、華凛が真面目な口調で尋ねる。

「最終的な目的はその、お付き合いをするってことで・・・いいのよね?」
「つきっ!?」

問われ、固まってしまう。
なるほど恋愛相談をもちかけているのだからその目的はと聞かれたら交際に至る事に他ならない。
けれど私は実はあまり具体的な事を考えていなかった。今はとにかくこの異常な性欲だとか落ち着きのなさだとか、そういうものを何とかして普通になることが目標だと思っていたのだ。

(でもそっか・・・そう、だよね・・・)

付き合う。恋人になる。
好いた相手とそうなることが出来ればそれは間違いなく幸せに違いない。
しかし常識的に考えて、遥先輩と私が付き合うことなどあり得るだろうか。
先輩は、とても人気がある。
ファンクラブまであるくらいだ、女子校とはいえ交際を求められたことだってきっとあるに違いない。
けれど遥先輩に関して浮いた話は聞いたことがない。尤も私がそういう話に疎いだけで本当は周知だったりするのだろうか―――

「えっと、その・・・ね?」

華凛なら。
彼女はとても交友関係が広い。ならば遥先輩についての"噂"なんかも知っていたりするだろうか。

「華凛はその、遥先輩に恋人がとか、そういうの・・・知ってる?」
「・・・ううん、私は遥先輩が特定の誰か付き合ってるってのは聞いたことはない。誰それに告白されてたとか、そういうのは何度か耳にしたことあるけど」
「そっか・・・」

それは安堵すべきか迷う情報だった。
恋人がいない事を喜ぶべきなのか、女の子には興味がないかもしれないと落胆すべきなのか・・・

「そうか、そうよね・・・」
「華凛?」

私が悩んでいる間、華凛は何事か考えているようだ。
やがて結論が出たのか華凛は顔を上げて告げる。

「今聞いたことないって言ったけど、それは私が遥先輩に対して人並み以上の関心がなかったから知らないだけなのかもしれない。だから、とりあえずしばらく時間を頂戴。私が遥先輩の事、色々と聞いてみるよ」
「いいの?」
「もちろん。任せろって言ったでしょ?」
「華凛っ!」

思わず飛びついてしまった私を、彼女はしっかりと受け止めてくれた。

「おおう、恵子さん・・・やっぱり大きくなってるのでは・・・」
「あ、もう!」

抱きしめた胸の中でスリスリと頭を動かすものだから、くすぐったくて慌てて彼女を離した。
けれどやはり歓喜が抑えきれず、もう一度華凛に抱き付く。

「えへへ・・・ありがと」

今度は華凛もふざけたりはせず、優しく抱き返して背中を撫でてくれた。
親友の手の動きが、胸に心地よい。

「華凛に相談して良かった・・・」

呟いて、私たちはしばらくの間静かに抱き合っていた。

 

――――――

 

そうして何日か、華凛は言葉通り友人たちに色々と聞いて回ってくれているようだった。
「あんたがいても邪魔になるから」とすげなくされた私は、今日もまた体育館の二階から先輩を眺めている。
しかしここ何日かは、今までとは違う心地でその姿を映していた。
これまでの私は、先輩の練習風景をみているだけで、その、少々はしたない感情が抑えきれずにいた。
けれどここ数日は胸の高鳴りこそ今までと変わらないものの、そういうイヤらしい欲求があまり沸いてこない(正確には沸くけども抑えられる)。

(・・・華凛に打ち明けたから?)

人に話を聞いてもらう事で、心の風通しが良くなったのだろうか。
今まではずっと胸に秘め続けていたせいでそれが鬱屈としていって昏い欲望となって表れていたのかもしれない。
ということは私も普通の女の子で、特別変態さんというわけではなかった?

(やっぱり、何でも溜め込むのは良くないって事よね)

そう結論付ける。
私の恋が叶うかどうか、いや、常識で考えれば叶う可能性は限りなく低い。
それでもたった一人の親友が傍にいる。支えてくれる。
それだけで、私は何があってもきっと大丈夫だと心から信じることが出来るのだ。
いつものスペース、体育館二階の踊り場、柱の陰。
その場所から私は、かつてない穏やかな心と逸る鼓動を同居させたまま、先輩の雄姿をいつまでも見つめていた。