百合好きによる百合小説掲載ブログ

現在公開している小説は長編一本のみです。投稿順に読んでいただければ問題ないので、初めは「私立桜花女学園・恵子の場合①」からスタートして下さい。またこのシリーズには性的な描写を含む場合があります。

私立桜花女学園・華凛の場合③

―――心が晴れない。
理由はまぁ、大体わかってる。それは恵子の事、そして見城先輩の事。
私が私の気持ちに素直に従うのであれば、あそこは恵子に想いを告げるところだったのだと思う。
だけど私には恵子の表情を曇らせる事も恵子と離れる事も出来ない。
結果、私は自らを切り裂き続ける道を選んだのだ。

(いや、きっと恵子は・・・)

例えば私がこの想いを告げたとしても、きっと真摯に受け止めてくれる。
報われる事は当然ないが、それでも友人関係を続けることはきっと出来るはずだ。
だから結局私が逃げたのは私の気持ちからなのだろう。

「・・・かっこわる」

履きなれたスニーカーが地面を蹴った。
今日は土曜日。我が校は土日祝日を休校としているため授業はなし。とはいえ今日も熱心な部活生たちは学校へ通い部活動に明け暮れている事だろう。
美術部も基本的に休みはない。正確に言えば活動日という考え方があまりなく、各々に必要なだけ美術室に行って創作に励んでいる。ただ今の美術部生は真面目な人が多いからきっと今日も殆どの人が活動を行っている事だろう。
私もかつてはそうだった。いや、実際は今でもそのつもりなのだが、ここ数日は絵に身が入れられない為少し休みがちになっていたのだ。

(どうしよっかなぁ・・・)

恵子に「任せて」と言った以上はやらなければと、ここ何日か私は知り合いや先輩から見城先輩についての情報を集めていた。
これまでに集まった情報をまとめると、今のところ先輩はフリー。というか親しい友人すら殆どおらず、唯一同級生で親友とも呼べるような人が一人、あとは部活内に見城先輩とよく練習でパートナーになる先輩が一人とのこと。
情報収集は一段落した。後はこれを恵子に伝えればいいだけ。

(・・・・・・)

長い話にもならない。恵子が傷つく内容でもない。それならばサクッと伝えてしまえばいいのに、それが出来ないのは・・・

「・・・ホント、かっこわる」

 

 

ぼんやり歩いているといつの間にか駅に着いていた。
私は普段はここから五駅ほど乗って学園最寄りの駅に行き、そこから歩いて学校を目指す。
足は止まらず、気が付けば私はいつも通りに電車に乗って、降りて。そしていつもの改札を抜けていた。
時刻は16時10分。
うちの制服をちらほらと見かけるのは恐らくは部活帰りの生徒達だろう。

(・・・さて、どうしよう)

今更部活という気分でも時間でもない。
幸いここの駅は比較的大きく、ショッピングセンターなどもある。
適当に時間をつぶそう、そう考えた私は一歩を踏み出して体が固まった。

(―――見城先輩!)

制服姿の先輩が小走りでこちらに向かってくる。
何故だか私は物陰に隠れてしまった。
そうしてチラリと先輩の様子を窺うと、見城先輩は改札には向かわず構内の喫茶店に入った。

(見城先輩みたいな人でも私たちが行くような喫茶店に入るんだ)

どうでもいい事を思いながら入り口を見ていると、先輩はすぐに中から出てきた。
明るい女性に手を引かれ、笑顔で何かを話している。

「うそ、もしかして恋人―――!?」

思わず口から吐いて出るが、よく見るとそういう雰囲気ではない。
そこで私は思い出した。そういえば先輩には同級生の親友がいるのだ。

(あの人がそうかな・・・)

確か名前は九条陽菜。
先輩と同じクラスで二重の意味で天然のお嬢様。
言葉は聞こえてこないが、立ち居振る舞いが何というか、とてもふわふわしている。突っついたらそのまま宙を漂いそうな人だ。
そんな感じで私が二人を見張っていると、やがて先輩達は駅中のデパートに入った。どうやら二人でショッピングでもするらしい。

「・・・・・・」

少し考えて、私も二人の後を追うように中へ。
土曜の夕方だけあって、中は人で溢れている。

(これなら・・・)

丁度いいか。
私は人ごみに紛れるようにして二人の後を追った。

 

尾行を始めて三十分。
やはりというか、先輩達の間柄は友人にしか見えなかった。
言葉まではよく聞き取れないが雰囲気でわかる。あれは私と恵子の関係と同じだ。
気の置けない、友人の雰囲気。

(まぁ・・そうだよね)

或いは恋人である可能性もと考えて後を付けたが、望みは叶いそうにない。
そもそも、よく考えてみれば見城先輩に恋人がいたとしてこんな学園生の多い場所でデートをするとも考えにくかった。

(収穫なしかぁ)

頼まれている内容を鑑みれば収穫は"あり"というのが正しいのだろう。
しかし私にとってはこれはプラスにならない情報だ。

(何だか惨めな気分だわ)

休日に何をやってるのだろう。
親友の想い人をこっそり尾行してフリーの確信を強めて勝手に落ち込んで。
本当に、馬鹿みたい。
こんな事しているくらいなら、恵子と一緒に―――

「恵子と・・・?」

そこまで考えてもう一度先輩達を見る。
あれはそう、私と恵子の関係だ。それはつまり―――

(・・・九条先輩・・・か)

私は心にその名をしっかりと刻み込んだ。